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コラム 2026.07.10

「季のむら」── お医者さんが住んだ立派な家を、4つの仕事と1つの庭がある場所へ。

季のむら 改修後の外観。緑の外壁と木製建具、共用の庭

広島県府中市出口町。立派な庭と茶室をもつ大きな空き家は、家具も仏壇も、生活用品もそのまま残っていました。私たちはここを、解体せず、ひとつの建物に4つの仕事と、ひとつのコミュニティを宿す場所に変えました。場所の名前は、「季のむら」といいます。

所在:広島県府中市 出口町/用途:複合施設(4テナント+共用スペース+庭)/事業形態:賃貸+運営/オープン:2025年

出口町の、大きな空き家

改修前の季のむら。お医者さんの住まいだった空き家と手入れ前の庭

府中市出口町に、ある空き家がありました。お医者さんの住まいとして建てられた大きな家で、立派な庭、本格的な茶室、応接間、6畳の和室、2階には2つの居室。築年数は経っていましたが、骨格はしっかりしていて、何より家の格がありました。

所有者の方は、ここをどうにかしたいと思いながらも、解体すれば何百万円もかかる。かといって、住む予定もない。生活用品、仏壇、ベッド、整理しきれないまま家具も残っていました。空き家のまま放置するわけにもいかず、相談がきっかけで、私たち由工房と話が始まりました。

解体ではなく、活かすという判断

古材を張ったリノベーション工事中の室内

普通であれば、解体して土地として売る。それが多くの空き家の通り道です。しかしこの家には、解体してしまうのが惜しい要素が多すぎました。茶室の佇まい、応接間の造作、庭の景色。これらは新築では決して再現できないものです。

私たちは、所有者の方と次のような提案をすり合わせていきました。

  • 家を残す前提で、4つの独立した「テナント」として貸し出せる構造にリノベーションする
  • 由工房がマスターリースし、由工房から個人事業主へ転貸する形をとる
  • 所有者は安定家賃を受け取り、解体費負担も発生しない
  • 運営・コミュニティづくりは由工房が担う

つまり、所有者は「貸して終わり」ではなく、家が誰かの仕事と暮らしの場になっていくこと自体を見届けられる、そういう関係性を設計したのです。

4つの空間、4つの仕事

季のむらのテナント区画。古材壁を活かした施術サロンの内装

家の中に4つの独立したテナント区画を設けました。重要だったのは、「壁を取り払って一律の貸スペースにする」のではなく、もとの部屋の個性を、その業態と合わせて活かすことでした。

  • 元・茶室 → 美容院:障子と床の間の意匠を活かし、和の落ち着きを保ったままシャンプー台と鏡を配置。
  • 元・応接間 → タイ式マッサージ:天井高と窓のとり方を活かし、施術ベッドとアジア雑貨が映える空間に。
  • 元・6畳和室 → ネイルサロン:畳から仕上げを変えつつ、和の空気感を残した個室サロンとして。
  • 元・2階居室(2部屋) → デザイナースタジオ:2部屋の壁を抜いて1部屋に。広さと天井の梁を活かしたクリエイティブ空間。

結果として、4つの異なる業種が、ひとつ屋根の下に並ぶことになりました。美容院・ネイルサロン・タイ式マッサージは女性のお客様の動線として相性が良く、デザイナーは2階で集中して仕事ができる。意図せず、互いを補完する小さなまちのような構造ができあがりました。

残されたものを、どう扱うか

Wooden shelving unit filled with skincare and beauty products in a warmly lit room with wooden walls.

空き家には、必ず「残されたもの」があります。家具、布団、写真、季節用品、そして仏壇。所有者の方も、すべてを処分することへの抵抗がある。私たちも、すべてを古道具として再生できるわけではない。

季のむらでは、次のような線引きをしました。

  • 仏壇は所有者と相談し、適切に魂抜き・移転をしたうえで処置
  • 使える家具は再塗装・補修して、共用スペースの什器として再活用
  • 古い建具(障子・襖)は可能な限り残し、必要に応じて復元・補修
  • 処分するものは、所有者立ち合いのうえで判断

家の主役は、家ではなく「家にあった暮らし」だった。それを敬意をもって整理することが、空き家再生のいちばん最初の仕事だと思っています。

これは派手な仕事ではないけれど、所有者の方が「任せてよかった」と思えるかどうかは、ここで決まります。

庭という、もう一つの建物

この家には、立派な庭がありました。手入れのされなくなった庭は、放っておけば荒れていく一方ですが、整えれば、建物以上のポテンシャルを持つ場所になります。

季のむらでは、庭をテナントの専用ではなく、共用のコミュニティスペースとして位置づけました。

  • テナントが共同で使えるイベントスペースとして整備
  • 不定期にマルシェ・ワークショップを開催
  • テナント利用者だけでなく、近隣住民にも開かれた場所に

庭は、テナントどうしの境界を曖昧にし、関係を生む装置として働いています。建物の中で4つの仕事が独立しながら、庭で混ざる。これが「むら」と名付けた理由のひとつでもあります。

借りる人ではなく、集う人を

季のむらに入居しているのは、いずれも子育て世代の個人事業主の方々です。私たちは入居者を「テナント」とだけ捉えず、季のむらというコミュニティに集うクリエイターの仲間として位置づけています。

賃料を受け取って終わり、ではありません。由工房が運営側として継続的に関わり、イベント企画、SNSでの広報、テナント間の連携、地域への発信──こうした「運営」が、私たちの新しい仕事になりました。

これは、由工房がこれまで培ってきた「建てる・直す」という仕事の延長線上に、「場をつくり、続ける」という新しい職能を加える試みでもあります。

季のむらが映す、私たちの仮説

季のむらは、由工房にとって、ひとつの仮説検証の場でもあります。

  • 解体ではなく活用が、所有者・地域・由工房のすべてにとって合理的になる条件は何か
  • 建てたあとに「運営」で関わり続けることは、工務店の仕事になりうるか
  • 空き家を「コミュニティの種」に変えることで、地域の課題は変わるか

2025年にオープンしてから、まだ歴史は浅い。けれど、すでに見え始めていることがあります。それは、空き家は終わりではなく、始まりの建物にもなるということです。

ご相談を、お待ちしています。所有しておられる空き家、ご実家、活用に困っておられる物件があれば、まずは現地を一度、一緒に見ましょう。

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