
広島県府中市出口町。立派な庭と茶室をもつ大きな空き家は、家具も仏壇も、生活用品もそのまま残っていました。私たちはここを、解体せず、ひとつの建物に4つの仕事と、ひとつのコミュニティを宿す場所に変えました。場所の名前は、「季のむら」といいます。
所在:広島県府中市 出口町/用途:複合施設(4テナント+共用スペース+庭)/事業形態:賃貸+運営/オープン:2025年

府中市出口町に、ある空き家がありました。お医者さんの住まいとして建てられた大きな家で、立派な庭、本格的な茶室、応接間、6畳の和室、2階には2つの居室。築年数は経っていましたが、骨格はしっかりしていて、何より家の格がありました。
所有者の方は、ここをどうにかしたいと思いながらも、解体すれば何百万円もかかる。かといって、住む予定もない。生活用品、仏壇、ベッド、整理しきれないまま家具も残っていました。空き家のまま放置するわけにもいかず、相談がきっかけで、私たち由工房と話が始まりました。

普通であれば、解体して土地として売る。それが多くの空き家の通り道です。しかしこの家には、解体してしまうのが惜しい要素が多すぎました。茶室の佇まい、応接間の造作、庭の景色。これらは新築では決して再現できないものです。
私たちは、所有者の方と次のような提案をすり合わせていきました。
つまり、所有者は「貸して終わり」ではなく、家が誰かの仕事と暮らしの場になっていくこと自体を見届けられる、そういう関係性を設計したのです。

家の中に4つの独立したテナント区画を設けました。重要だったのは、「壁を取り払って一律の貸スペースにする」のではなく、もとの部屋の個性を、その業態と合わせて活かすことでした。
結果として、4つの異なる業種が、ひとつ屋根の下に並ぶことになりました。美容院・ネイルサロン・タイ式マッサージは女性のお客様の動線として相性が良く、デザイナーは2階で集中して仕事ができる。意図せず、互いを補完する小さなまちのような構造ができあがりました。

空き家には、必ず「残されたもの」があります。家具、布団、写真、季節用品、そして仏壇。所有者の方も、すべてを処分することへの抵抗がある。私たちも、すべてを古道具として再生できるわけではない。
季のむらでは、次のような線引きをしました。
家の主役は、家ではなく「家にあった暮らし」だった。それを敬意をもって整理することが、空き家再生のいちばん最初の仕事だと思っています。
これは派手な仕事ではないけれど、所有者の方が「任せてよかった」と思えるかどうかは、ここで決まります。
この家には、立派な庭がありました。手入れのされなくなった庭は、放っておけば荒れていく一方ですが、整えれば、建物以上のポテンシャルを持つ場所になります。
季のむらでは、庭をテナントの専用ではなく、共用のコミュニティスペースとして位置づけました。
庭は、テナントどうしの境界を曖昧にし、関係を生む装置として働いています。建物の中で4つの仕事が独立しながら、庭で混ざる。これが「むら」と名付けた理由のひとつでもあります。
季のむらに入居しているのは、いずれも子育て世代の個人事業主の方々です。私たちは入居者を「テナント」とだけ捉えず、季のむらというコミュニティに集うクリエイターの仲間として位置づけています。
賃料を受け取って終わり、ではありません。由工房が運営側として継続的に関わり、イベント企画、SNSでの広報、テナント間の連携、地域への発信──こうした「運営」が、私たちの新しい仕事になりました。
これは、由工房がこれまで培ってきた「建てる・直す」という仕事の延長線上に、「場をつくり、続ける」という新しい職能を加える試みでもあります。
季のむらは、由工房にとって、ひとつの仮説検証の場でもあります。
2025年にオープンしてから、まだ歴史は浅い。けれど、すでに見え始めていることがあります。それは、空き家は終わりではなく、始まりの建物にもなるということです。
ご相談を、お待ちしています。所有しておられる空き家、ご実家、活用に困っておられる物件があれば、まずは現地を一度、一緒に見ましょう。